執筆者:弁護士 原 隆(はら たかし) 原総合法律事務所 代表弁護士 |
化粧品やコスメなどの美容製品や健康食品を扱われるEC事業者の方は、しばしば「『薬機法』に気を付けないといけない」、という話は耳にされると思います。 EC事業者にとって薬機法は特に商品の表示や広告の方法で気を付けなければならない法律です。 違反すると刑事事件になって逮捕されてしまったり、巨額の課徴金を課せられたりなど大変なことになってしまう場合があります。
今回は、まず、薬機法の広告規制の基本事項についてお話しします。
1 薬機法とは
「薬機法」は正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といいます。その名の通り、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品(以下「医薬品等」といいます。)の品質、有効性、安全性を確保することによって、保健衛生の向上を図ることを目的とした法律です。
医薬品等の製造、表示、販売、流通、広告などについて細かく定めており、これらを扱う際には、必ずかかわってくる法律です。 EC事業者にとっては、特に広告規制が重要です。 具体的にどのようなものが規制の対象となっているのか、以下、見てみましょう。
2 薬機法上の定義と具体例
(1)医薬品
ア 法律上の定義(薬機法第2条1項)
一 日本薬局方に収められている物 二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。) 三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。) |
イ 具体例
・「医療用医薬品」(購入には医師の処方箋が必要な治療薬等)
・「一般用医薬品(OTC医薬品)」(ドラッグストアで薬剤師の助言を得て購入できる頭痛薬等)など
(2) 医薬部外品
ア 法律上の定義(薬機法第2条第2項)
一 次のイからハまでに掲げる目的のために使用される物(これらの使用目的のほかに、併せて前項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物を除く。)であつて機械器具等でないもの イ 吐きけその他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止 ロ あせも、ただれ等の防止 ハ 脱毛の防止、育毛又は除毛 二 人又は動物の保健のためにするねずみ、はえ、蚊、のみその他これらに類する生物の防除の目的のために使用される物(この使用目的のほかに、併せて前項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物を除く。)であつて機械器具等でないもの 三 前項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物(前二号に掲げる物を除く。)のうち、厚生労働大臣が指定するもの |
イ 具体例
・育毛剤、除毛剤、染毛剤、薬用入浴剤、コンタクトレンズ装着剤や手指消毒製品など
・ねずみやはえ等の防除目的で使用する殺そ剤や殺虫剤など
(3)化粧品
ア 法律上の定義(薬機法第2条第3項)
人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌ぼうを変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、第一項第二号又は第三号に規定する用途に使用されることも併せて目的とされている物及び医薬部外品を除く。 |
イ 具体例
・化粧水、乳液、ファンデーションや口紅などのコスメやスキンケア用品
・シャンプー、石けん、香水、歯磨き剤など
(4)医療機器
ア 法律上の定義(薬機法第2条第4項)
人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であつて、政令で定めるもの |
イ 具体例
・心電計、ペースメーカー、内視鏡
・CT、MRI等
(5)再生医療等製品
ア 法律上の定義(薬機法第2条第9項)
一 次に掲げる医療又は獣医療に使用されることが目的とされている物のうち、人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したもの イ 人又は動物の身体の構造又は機能の再建、修復又は形成 ロ 人又は動物の疾病の治療又は予防 二 人又は動物の疾病の治療に使用されることが目的とされている物のうち、人又は動物の細胞に導入され、これらの体内で発現する遺伝子を含有させたもの |
イ 具体例
・遺伝子発現治療製品、ヒト体細胞加工製品等
3 広告規制について
(1)薬機法における「広告」とは?
薬機法において「広告」として扱われて規制を受けるのは、次の3つの性質を有するものです。(参照:「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」)
①顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること
②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること
③一般人が認知できる状態であること
ECサイト上に載せる商品の説明や紹介文などは、ほぼ全て含まると考えた方が良いでしょう。 EC事業者としては、自社の扱う製品の素晴らしさをサイト上で記載して宣伝したいのは山々ですが、特に人体に影響を及ぼす効用や機能を持つ表現について、薬機法は厳しい規制を課していますので注意してください。以下、詳しく解説します。(2)薬機法で禁止される広告
EC事業者にとって、注意が必要なのは、薬機法第66条(虚偽誇大広告)と、第68条(未承認医薬品の広告)です。
ア 誇大広告等(第66条)
(ア)法律の条文
1 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。 2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。 3 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。 |
(イ)解説
まず、虚偽・誇大広告が禁止されています。医師関係者の保証を匂わす記事も、 たとえそれが真実であったとしても、虚偽・誇大広告とみなされてしまい違法 となってしまいます。
もう一つ、注意が必要な点として、誰が行った場合でも違反として処分の対象となります。メーカーや販売業者のみならず、メディアや広告関係者等に対しても規制が及びますので注意が必要です。
イ 承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止(第68条)
(ア)条文
何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三条の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。 |
(イ)解説
医薬品等としての認証を受けていないものについては、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告の実施が禁止されています。
この規定はとても重要です。例えば、健康食品などでも、 広告表現等から、「医薬品」のように病気の治療や予防の目的を持つと判断されてしまうと、未承認医薬品としてこの法律に違反する こととなりますので、これらの製品を扱うEC事業者や広告会社にとっては、非常に注意が必要です。
(参考:「医薬品の範囲に関する基準の一部改正について」)
また、誰が行った場合でも違反として処分の対象となります。実際に広告代理店の従業員が逮捕された事例もあります。
(参考:ステラ漢方事件)
ウ 医薬品等適正広告基準
上記の薬機法の規定を明確にするため、厚生労働省が「医薬品等適正広告基準」「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等」が公表されており、以下の内容が定められております。
・医薬品等の広告に関する品位の保持
・名称の使用に関する制限
・効能効果等、用法用量等について、承認範囲を超える表現の禁止
・効能効果等又は安全性について保証する表現の禁止
・最大級表現の禁止
・即効性・持続性等について、医学薬学上認められる範囲を超える表現の禁止
・本来の効能効果等と認められない表現の禁止
・過量消費又は乱用助長を促す広告の禁止
・医療用医薬品等の広告の制限
・他社の製品の誹謗広告の制限
・医薬関係者等の推せん表現の禁止
・不快、迷惑、不安、恐怖等を与える広告の制限
(3)違反に対する制裁
上記の薬機法の規制に違反した場合には、例えば、以下のような制裁が下される可能性があります。
ア 刑事罰
2年以下の懲役又は200万円以下の罰金(薬機法66条又は68条の違反)第85条第4号、第5号。
※刑事訴訟手続の一環で 逮捕・勾留されてしまう可能性もあります。
(実例)
・「がんに効く」サプリ事件(逮捕)
・ステラ漢方事件(逮捕)
・タンポポ茶事件(逮捕)
・シンゲン・メディカル事件(逮捕)
・はげや事件(逮捕)
・日本ホールフーズ事件(書類送検)
イ 課徴金納付命令(行政処分)薬機法75条の5の2
66条1項(虚偽又は誇大広告)違反については、課徴金が課せられることがあります。課徴金額は原則として、違反を行っていた期間中における対象商品の売上額×4.5%です。課徴金額が225万円(対象品目の売上げ5000万円)未満の場合は、課徴金納付命令は行われません。
参考:「課徴金制度の導入について」
ウ 措置命令等(行政処分)薬機法72条の5
第66条1項(虚偽又は誇大広告)又は第68条(未承認医薬品の広告)の違反について、 再発防止、公示、危険防止措置命令等の行政処分 が課せられることがあります。
4 まとめ
商品の広告表示において注意しなければならない法律は、薬機法の他にも、景品表示法、健康増進法、特定商取引法などがありますが、それらと比べて薬機法の特徴は、“真実であったとしても絶対に使ってはならない“表現があることです。さらに、違反は犯罪ですから逮捕されたり前科がついたりする可能性もありペナルティも絶大です。万が一、自社で予定している広告表現が薬機法違反にならないかの判断に不安がある場合には、早めに弁護士にチェック等をご依頼ください。
(参考:「広告表現チェック」原綜合法律事務所)
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※本記事は、下記の最終更新日時点の法令及び最新情報に基づくものです。
初回掲載日 令和4年9月4日
最終更新日 令和4年9月23日