【弁護士が解説】EC事業者のための法律講座(基本編) 健康増進法~表示規制について~

執筆者:弁護士 原 隆(はら たかし)

原総合法律事務所 代表弁護士

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1 健康増進法とは?

 健康増進法とは、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、 国民の健康の増進を図るための措置を講じ、国民保健の向上を図ることを目的として、特定保健用食品を含む特別用途表示の許可(43条)の他にも、受動喫煙の防止(25条)を含む環境整備などの総合政策を定めたものです。

特にEC事業者が注意するべき点は、食品として販売に供する物の健康保持増進効果等についての虚偽誇大表示の禁止(65条)です。これは、一般食品としての健康食品の他にも保健機能食品についても適用されます。

2 虚偽誇⼤表⽰等の禁⽌

(1)条文(健康増進法65条1項)

何人も食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項(次条第三項において「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。

(2)適用の対象者

虚偽誇大広告について第一義的に規制の対象となるのは健康食品の製造業者、販売業者ですが、「何人も」とあるように、当該表示の内容が虚偽誇大なものであることを予見し、又は容易に予見し得た場合等特別な事情がある場合には、新聞社、雑誌社、放送事業者、インターネット媒体社等の広告媒体事業者等も対象となり得ます。

(3)「健康保持増進効果等」

 具体的には以下のものが該当します。但し、以下のうち、そもそも医療品的な目的の場合には、前提として薬機法上の承認が必要であり、特敵の保険の用途に適する旨の効果を表示する場合には消費者庁長官の許可が必要であり、これらを欠く場合には、虚偽誇大表示であろうとなかろうと違法として扱われます。

 

効果内容

前提

①健康の保持増進の効果

疾病の治療又は予防を目的とする効果

「糖尿病、高血圧、動脈硬化の人に」、「末期ガンが治る」、「虫歯にならない」、「アレルギー症状を緩和する」、「花粉症に効果あり」、「インフルエンザの予防に」、「便秘改善」等

薬機法上の承認が必要

身体の組織機能の増強、増進を主たる目的とする効果

「疲労回復」、「強精(強性)強壮」、「体力増強」、「食欲増進」、「老化防止」、「免疫機能の向上」、「疾病に対する自然治癒力を増強します」、「集中力を高める」、「脂肪燃焼を促進!」等

特定の保健の用途に適する旨の効果

「本品はおなかの調子を整えます」、「この製品は血圧が高めの方に適する」、「コレステロールの吸収を抑える」、「食後の血中中性脂肪の上昇を抑える」、「本品には○○○(成分名)が含まれます。○○○(成分名)には食事の脂肪や糖分の吸収を抑える機能があることが報告されています。」等

消費者庁長官の許可が必要

栄養成分の効果

「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です」等

食品表示基準に従った表示が必要

内閣府令で定める事項

含有する食品又は成分の量

「大豆が○○g含まれている」、「カルシウム○○mg配合」等

 

特定の食品又は成分を含有する旨

「プロポリス含有」、「○○抽出エキスを使用しています」等

熱量

「カロリーオフ」、「エネルギー 0kcal」等

 

人の身体を美化し、魅力を増し、容ぼうを変え、又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つことに資する効果

「美肌、美白効果が得られます」、「皮膚にうるおいを与えます」、「美しい理想の体形に」等

暗示的又は間接的な健康保持増進効果等を表示

名称又はキャッチフレーズ

「ほね元気」、「延命○○」、「快便食品(特許第○○号)」、「血糖下降茶」、4 「血液サラサラ」等

 

含有成分の表示及び説明

「腸内環境を改善することで知られる○○○を原料とし、これに有効成分を添加することによって、相乗効果を発揮!」、「○○○(成分名)は、不飽和脂肪酸の一種で、血液をサラサラにします」、「○○○(成分名)は、関節部分の軟骨の再生・再形成を促し、中高年の方々の関節のケアに最適です」等

 

起源、由来等の説明

『○○○』という古い自然科学書をみると×××は肥満を防止し、消化を助けるとある。こうした経験が昔から伝えられたが故に、×××は食膳に必ず備えられたものである。」、「インド国内では医薬品として販売されています」、「欧州では循環器系の薬として、イチョウ葉が使用されています」等

 

新聞、雑誌等の記事、医師、学者等の談話、学説、経験談などを引用又は掲載

)○○ ○○(××県、△△歳) 「×××を3か月間毎朝続けて食べたら、9㎏痩せました。」 ○○医科大学△△△教授の談 「発がん性物質を与えたマウスに○○○の抽出成分を食べさせたところ、何もしなかったマウスよりもかなり低い発ガン率だったことが発表されました」 「○○%の医師の方が、『○○製品の利用をおススメする』と回答しました」 「管理栄養士が推奨する○○成分を配合」等

 

行政機関(外国政府機関を含む。)や研究機関等による高評価の表示

「××国政府認可○○食品」、「○○研究所推薦○○食品」等

 

(参考:「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)」

(4)違反が疑われる表示例

具体的に、以下のような表示例が違反が疑われ問題となり得ます。

ア 保健機能食品

 

類型

具体例

特定保健用食品

許可を受けた表示内容を超える

① 許可を受けた表示内容が「本品は、食後の血中中性脂肪の上昇を抑える○○を含んでおり、脂肪の多い食事をとりがちな人の食生活改善に役立ちます。」

⇒「体脂肪を減らす」などと表示

② 許可を受けた表示内容が「本品は、○○を含んでおり、糖の吸収を穏やかにするので、血糖値が気になり始めた方に適した食品です。」

⇒「血糖値を下げる」などと表示

③ 許可を受けた表示内容が「食後の中性脂肪の上昇を抑える」

⇒広告や容器包装等において「食後の」という文言を省略して、単に「中性脂肪の上昇を抑える」と表示(中性脂肪の上昇を抑える効果が継続的にあるかのように表示)

④ 許可を受けた表示内容が「本品は、コレステロールの吸収を抑える働きがある○○を含んでいるので、コレステロールが気になる方に適した食品です」

⇒単に「コレステロールの吸収を抑える」と表示(当該特定保健用食品自体がコレステロールの吸収を抑える効果があるかのように表示)

⑤ 許可を受けた表示内容が「本品は、脂肪の吸収を抑えるのを助ける」

⇒広告や容器包装等において、単に「脂肪の吸収を抑える」と表示(当該商品に脂肪の吸収を抑える効果があるかのように表示)

試験結果やグラフの使用方法が不適切

① 試験条件(対象者、人数、摂取方法等)を適切に表示しない(実際には、試験対象者がBMIの数値が25以上の者に限定されているにもかかわらず、当該試験条件を明瞭に表示しないことにより、標準的な体型の者にも同様の効果があるかのように表示するなど)

② 試験結果を示すグラフを極端にトリミング(スケール調整等)することにより、実際の試験結果よりも過大な効果があるかのように表示

③ 実際には、複数の試験結果があるにもかかわらず、有意差の大きい試験結果のみを広告等において使用することにより、全ての試験結果において有意差のある結果が得られたかのように表示

アンケートやモニター調査等の使用方法が不適切な表示

① 実際には、アンケートの質問内容が「本商品を購入したことに満足していますか」

⇒ 当該アンケート結果として「○%の人が効果を実感した」などと表示

② 実際には、商品の効果を実感できなかった旨の体験談が相当数あるにもかかわらず、一部の都合の良い体験談や体験者の都合の良いコメントのみを引用するなどして、誰でも容易に同様の効果が期待できるかのように表示

医師又は歯科医師の診断、治療等によることなく疾病を治癒できるかのような表示

①「本商品を摂取すれば、医者に行かずともガンが治る!」などと表示

②「本商品を1日1本飲むだけで、食事療法や薬に頼らず糖尿病を改善!」などと表示

機能性表示食品

届出内容を超える表示

① 届出表示が「本品には○○(機能性関与成分の名称)が含まれます。○○には、血中コレステロールを低下させる機能があることが報告されています。」

⇒「コレステロールを下げる」と表示(商品自体に機能性があるかのように表示)

② 機能性関与成分が「難消化性デキストリン」のみ

⇒「難消化性デキストリン及び大豆イソフラボンが含まれるので、内臓脂肪を減らすのを助ける機能があります。」と表示(当該成分が機能性関与成分であるかのように表示)

特定保健用食品と誤認される表示

① 機能性表示食品と特定保健用食品の両方を含むシリーズ商品を並べて、許可を受けた保健の用途を強調表示

② 特定保健用食品として消費者に認知度の高い既存の食品と、商品名やデザイン、含有成分、キャッチコピー等を類似させる

国の評価、許可等を誤認される表示

「消費者庁承認」、「消費者庁長官許可」、「○○省承認」、「○○省推薦」、「○○省確認済」、「○○政府機関も認めた」と表示

 

裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いている

① 届出資料に記載されたヒト試験の結果では、体脂肪率や体脂肪量、総脂肪面積が被験食群とプラセボ群との間で肯定的な結果が得られていないにもかかわらず、「体脂肪を減らす機能を有する」と表示

② 届出資料に記載された機能性に関する研究レビューが、肯定的な論文だけを意図的に抽出

③ 限られた指標のデータを用いて得られた根拠に基づく部分的な機能であるにもかかわらず、「身体の特定の部位(目、関節、脳等)の健康を維持する」等の当該部位全体に関する機能があると誤認される表示

④ 「免疫細胞の数を増やす」、「体重を減らす」等の生体に作用する機能が不明確な表示

⑤ 一方向のデータに基づくものであるにもかかわらず、「血圧を健康に保つ」、「中性脂肪の改善に役立つ」等の両方向に適正に作用することを期待させる表示

栄養機能食品

国が定める基準に係る栄養成分以外の成分の機能の表示

「アミノ酸は脂肪燃焼を促進させる栄養素です」(アミノ酸は国の定める基準に係る栄養成分ではない)

 

国が定める基準を満たさない食品についての栄養成分の機能の表示

商品の一日当たりの摂取目安量に含まれるカルシウムの量が100mgであるにもかかわらず、「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です」と表示

イ 保健機能食品以外の健康食品

類型

具体例

医師又は歯科医師の診断、治療等によることなく疾病を治癒できるかのような表示

「この商品を飲めば、医者に行かなくとも動脈硬化を改善!」

 「薬に頼らずに、糖尿病や高血圧を改善したい方にオススメ」

「本品に含まれる○○○、△△△等の成分は、昔から生活習慣病の予防に効くと言われており、本品を飲めば医者いらずです」

特段の運動や食事制限をすることなく、短期間で容易に著しい痩身効果が得られるかのような表示

「決して食事制限はしないでください。この○○○があなたのムダを強力サポート」

「食べたカロリーをなかったことに」

「一日たった3粒飲むだけで、楽に痩せることができました!」

「寝る前に飲むだけで、何もしなくても、勝手に痩せていきます」

「普段の食事を変えなくても、1か月で10kgも減りました」

「痩せるためにもう努力はいりません!○○○を飲むだけで楽ヤセできます」

「飲むだけで、ぽっこりお腹とサヨナラできます。ラーメンも、ハンバーグも、ステーキも好きなだけ食べてOKです」

最上級又はこれに類する表現

「最高級ミネラル成分の配合により、絶対に痩せられます!!」

「最高のダイエットサプリメント!絶対痩せられる○○○サプリ!」

「血圧に作用するサプリメントの中で、日本一の品質です」

体験談の使用方法が不適切な表示

・実際には、体験者が存在しないにもかかわらず、体験者の存在をねつ造したり、体験者のコメントをねつ造する場合

・実際には、食事療法や薬物療法を併用しているにもかかわらず、その旨を明瞭に表示せずに、健康食品を摂取するだけで効果が得られたかのような体験談を表示する場合

・一部の都合の良い体験談のみや体験者の都合の良いコメントのみを引用するなどして、誰でも容易に同様の効果が期待できるかのような表示がされている場合

・メリットとなる情報を断定的に表示しているにもかかわらず、デメリットとなる情報(効果が現れない者が実際にいること、一定の条件下でなければ効果が得られにくいこと等)が示されていない、又は消費者が認識し難い方法で表示されている場合

体験結果やグラフの使用方法が不適切な表示

・実際には、試験対象者がBMIの数値が25以上の者に限定されているにもかかわらず、当該試験条件を明瞭に表示しない

・試験結果を示すグラフを極端にトリミング(スケール調整等)

・実際には、複数の試験結果があるにもかかわらず、有意差の大きい試験結果のみを広告等において使用

行政機関等の認証等に関する不適切な表示

「消費者庁承認済みのダイエット用健康食品です」

「○○外国政府機関も認めたダイエット用健康食品です」

「世界保健機構(WHO)許可」

(参考:「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」消費者庁

3 制裁について

 違反に関する制裁は、以下の流れとなります。

 ・必要な措置を採るべき勧告(健康増進法66条1項。一般に、消費者庁による行政指導が先行することが多いです)。

 ・ここで勧告を受けた措置をとらないと、措置命令(健康増進法66条2項)が下され、これに違反すると6月以下懲役又は100万円以下の罰金(健康増進法36条の2)。

4 処分事例

ライオン株式会社『トマト酢生活』(平成28年3月1日公表)

 ※特定保健用食品として許可を受けていましたが、「本品は食酢の主成分である酢酸を含んでおり、血圧が高めの方に適した食品です。」が許可表示でした。

⇒血圧を下げる効果があると表示することについて消費者庁長官から許可を受けているかのように記載し、勧告となり公表されました。このように、トクホとしての許可を受けていても、同法の対象となりますので、注意が必要です。

5 景品表示法との関係

 ここまで述べてきた健康増進法65条1項の虚偽誇大表示規制違反に該当する場合は、実は、多くの場面で景品表示法5条1号の優良誤認表示違反にも該当します。

実際には、健康食品に広告表示に関する具体的摘発事例の多くは景表法違反として摘発されています。背景として、景表法には、不実証広告規制、措置命令や課徴金などの制度が整っていることなどが理由として考えられます。

(参考:日本サプリメント株式会社ペプチドシリーズ及び豆鼓エキスシリーズについての措置命令(平成29年2月14日公表)、課徴金納付命令(平成29年6月7日公表))

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※本記事は、下記の最終更新日時点の法令及び最新情報に基づくものです。

初回掲載日 令和4年9月6日

最終更新日 令和4年9月23日

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