【弁護士が解説】EC事業者のための法律講座(基本編) 特定商取引法1 ~特定商取引法に基づく表記~

執筆者:弁護士 原 隆(はら たかし)

原総合法律事務所 代表弁護士

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1 EC事業者にとっての特定商取引法とは

 特定商取引法は、事業者と消費者との間にトラブルが発生しやすい取引類型を対象に 事業者が守るべきルールと消費者を守るルール等を定めている法律です。具体的には、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売、連鎖取引販売、特定継続的役務提供(語学教室等)、業務提供誘因販売取引、訪問購入の7類型が対象で。EC事業も「通信版売」として規制の対象となっています。

2 必要な広告の表示(特商法第11条)

 通信販売は、対面販売と異なり、顔の見えない者同士の取引であり、販売条件等についての情報は、まず広告を通じて提供されます。そのため、広告の記載が不十分であったり、不明確であったりすると、顧客は十分な判断材料がない中で購入を決めざるを得ず、購入した後でトラブルを生ずることになります。
このような事態を避けるために、特商法は売主から買主へ最低限必要な情報提供として次の事項を広告に表示するよう義務付けています。これが、一般に事業者がサイト上で「特定商取引法に基づく表記」として掲載する必要のある内容です。

(参考:「通信販売広告について」、「通信販売」特定商取引法ガイド 消費者庁HP)

記載が必要な項目

適切な記載例等(※は注意事項)

販売価格(役務の対価)

※消費税込みの金額

送料

※記載がない場合は、代金に含まれていると推定されますので注意しましょう。

【全国一律の場合】

「全国一律○○円」

【全ての地域について表示する場合】

「○○円(北海道)、○○円(北東北)、○○円(南東北)・・・

○○円(沖縄)」

※発送元地域と重量、サイズ等について明確にした上で、利用する運送会社の料金表のページにリンクを貼ることも可。

代金(対価)の支払時期、方法

※金融機関、コンビニエンスストア等で振込や支払手続を行う必要がある場合には、前払い又は後払いのいずれであるかを明示するとともに、いつまでに支払を済ませる必要があるのかという具体的な時期も表示する必要があります。

※代金の支払方法(銀行振込、クレジット、代金引換、現地決済等の支払方法の別)が複数ある場合は全て表示することが必要です。

商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)

【前払式の場合】

「代金入金確認次第、速やかに商品を発送します。」

「代金入金確認後、○○日以内に発送します。」

【クレジットカード決済の場合】

「クレジットカード利用の承認が下りた後、○○日以内に発送します。」

【代金引換式の場合】

「お客様の御指定日に発送します。商品到着時に、運送会社の方に代金をお支払いください。」

【後払式の場合】

「商品到着後、同封の振込用紙にて一週間以内にお振込みください。」

【エスクローサービス利用の場合】

「当社は、○○株式会社の提供するエスクローサービス(サービス名:○○○○)を利用しています。支払時期や商品の引渡時期については、下記のURLからエスクローサービス提供会社のウェブサイトを御参照ください。」

(ある場合のみ)申込みの期間に関する定めがある旨と内容

※申込期間について不実の表示を行い、当該商品が期間経過後に購入できなくなると消費者に誤認させるような不当な表示(虚偽の購入期限のカウントダウンや期間限定販売)等を防止する観点から、申込期間を設けている場合には正しく表示することが求められます。

契約の申込みの撤回又は解除に関する事項(売買契約に係る返品特約がある場合はその内容を含む。)

※契約の申込みの撤回又は解除(キャンセル)に関して、その条件、方法、効果等について表示する必要があります。例えば、売買契約の場合には、申込みの撤回等についての特約(返品特約)がある場合については、申込みの撤回等を認めるか否か、その際の条件は何か、送料の負担の有無等を明示することが必要です。

事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、(インターネットで広告を行う場合には、代表者の氏名又は通信販売の業務の責任者の氏名)

【株式会社の場合】

「名称      株式会社○○○○

代表者    ○○ ○○

住所     ○○県△△市□□区◇◇ ×××

電話番号   ○○○-○○○-○○○○」

【個人事業者の場合】

「氏名     ○○ ○○

住所     ○○県△△市□□区◇◇ ×××

電話番号    ○○○-○○○-○○○○」

※氏名の代わりに商業登記簿上に記載された商号でも可。

販売価格、送料等以外に購入者等が負担すべき金銭があるときには、その内容及びその額

※全て金額で表示することが必要となります。

1「販売価格     ○○円

送   料   全国一律 ○○円

工 事 費   ○○円

梱 包 料   ○○円」

2「販売価格     ○○円(送料を含む)

工事費・梱包料 ○○円」

3「販売価格    ○○円(送料を含む)

代引手数料   ○○円

梱 包 料   ○○円

保 険 料   ○○円」

引き渡された商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容

【返品特約がある場合】

「商品に欠陥がある場合には送料当方負担で返品を受け付けます。また、 商品に欠陥がない場合であっても、全ての商品について○○日間に限り返品に応じ、送料は当方が負担いたします」

「商品に欠陥がない場合であっても、全ての商品について○○日間に限り、返品に応じます。送料は、商品に欠陥がある場合には当方が負担しますが、そうでない場合には、購入者負担といたします」

【商品の返品特約がない場合】

「商品に欠陥がある場合を除き、返品には応じません」

「不良品の場合には返品を受け付けますが、商品に欠陥がない場合には、返品に応じません」

(ソフトウェアに関する取引の場合)動作環境

※ソフトウェアを利用するために必要な電子計算機の動作環境(OSの種類、CPUの種類、メモリの容量、ハードディスクの空き容量等)を表示しなければなりません。

(上記の他、以下についても表示が必要です)

・【事業者が外国法人又は外国に住所を有する個人で国内に事務所等を有する場合】

その所在場所及び電話番号

・【2回以上継続して契約を締結する必要がある場合】

その旨及び販売条件又は提供条件

・【商品の販売数量の制限等、特別な販売条件(役務提供条件)があるとき】

その内容

・【請求によりカタログ等を別途送付する場合)それが有料であるとき】

その金額

・【電子メールによる商業広告を送る場合】

事業者の電子メールアドレス

3 表示事項の省略

 広告の態様は千差万別であり、広告スペース等も様々であることから、広告の表示事項を一部省略することができる場合があります。ただし、そのためには消費者からの請求によって、これらの事項を記載した書面(インターネット通信販売においては電子メールでもよい)を「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ、実際に請求があった場合に「遅滞なく」提供できるような措置を講じていることが必要です(特商法第11条ただし書)。
 ECでは表示スペースの限界が問題なることは少ないと思いますが、例えば、個人事業主の方で、自宅の住所や電話番号を記載することに抵抗がある方は上記の体制を整えるという方法もあり得ます。

4 違反に対する制裁

上記の違反は、行政処分として、業務改善の指示(法第14条第1項)や業務停止命令(法第15条第1項前段)、役員等の業務禁止命令(法第15条の2第1項)等の行政処分の対象となるほか、一部は罰則の対象にもなります。
また、返品に関する表示や、申し込みを受ける際の表示に関する事項や、それに対する違反については、次回以降詳しく解説いたします。

5 EC事業者の方へ

特商法で記載を求められている事項は、どれも顧客にとってだけでなくEC事業者にとっても大切な事項ばかりです。これらをしっかり決めずに曖昧にしたまま事業を始めてしまうと、その場対応となってしまい、クレームも増えて顧客に対して一貫した対応がとれなくなってしまいますし、スムーズは運営もできなくなってしまいます。
EC事業を始める場合には、サイトを立ち上げるにあたって、利用規約やプライバシーポリシーと並んで、まず、最初に自社の方針をじっくりと検討して準備することが大切です。

 

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※本記事は、下記の最終更新日時点の法令及び最新情報に基づくものです。

初回掲載日 令和4年9月6日

最終更新日 令和4年9月23日

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